免震とは、地震の力を免れること
「免震」とは、建物の地震対策のための構造の一種。その名の通り「地震の力を免れる」仕組みになっているのが特徴です。
建物を地震の揺れから守るには、建物自体を宙に浮かせて地震の揺れが伝わらないようにするのが最適です。免震構造は、この発想から生まれました。
土台となる基礎と建物との間に免震装置を設置して地盤と切り離すことで地震の揺れを直接伝えないようにすることができるため、建物を浮かせるまではいかずとも、揺れによる建物や人、家具などへの被害を小さくすることができます。
一般社団法人 日本免震構造協会によると、免震構造を持つ建築物がはじめて建てられたのは30年以上前。
その後、現在(2023年時点)までにビルなどが4100棟、戸建て免震住宅が4000軒ほど建設されており、特に高層ビルなどの大規模な建築物に多く採用されています。
免震は免震装置によって地震の揺れを緩和する
免震構造に用いられる免震装置は、基礎(建物の土台/地面)と建物の間に設置して揺れが伝わるのを逸らす効果があります。
具体的な免震装置としては、地震の際は建物に揺れが伝わらないよう水平方向に変形する「アイソレータ」、揺れを吸収して建物を守る「ダンパー」の2種類があり、アイソレータで逃がした地震の揺れをダンバーで抑えるという仕組みになっています。
アイソレータとダンパーにもいくつか種類があるので、以下でそれぞれの特徴を解説しましょう。
アイソレータの種類①・積層ゴム
積層ゴムのアイソレータは、その名の通り柔らかいゴムと硬い鋼板が積み重なった構造になっています。
平常時は頑健な鋼板が建物をしっかりと支え、地震が起こった際は柔らかいゴムが揺れを受け止めてゆっくりと水平方向に動き、建物に伝わる揺れを減らす働きをします。
積層ゴムのアイソレータが受け止めた揺れが収まるまでには一定の時間を要するため、ダンパーを併用して揺れが収まるまでの時間を短くしています。
アイソレータの種類②・すべり支承
すべり支承(ししょう)のアイソレータは、建物の支柱の直下に土台が置かれ、それを「すべり板」と呼ばれるPTFE(四フッ化エチレン樹脂)を主成分とした材料などで表面に特別な処理を施された鋼板が受けるという構造になっています。
一般的な支承はそれぞれ上下を建物と基礎にボルトなどで繋がれていますが、すべり支承は上下どちらかが繋がっておらず、地震の際は土台がすべり板の上を滑るように動き、振動が建物に伝わりにくくなる仕組みです。
土台が硬い素材でできている「剛すべり支承」と柔らかい積層ゴムでできている「弾性すべり支承」といった種類があり、剛すべり支承はゴムを使用していないことから耐火性が必要な建物に、弾性すべり支承は柔らかな積層ゴムによって小さな地震の揺れも軽減できるためできるだけ安定性を保ちたい建物に向いています。
アイソレータの種類③・転がり支承
転がり支承(ししょう)のアイソレータは「ボールベアリング式転がり支承」または「直動転がり支承」とも呼ばれています。
ボールベアリング(摩擦の少ないボールの回転で動きをスムーズにする部品)が建物を支える構造になっており、地震が起こった際はレールの上をボールベアリングが転がって移動し、揺れが建物に伝わりづらくなる仕組みです。
ダンパーの種類①・オイルダンパー
オイルダンパーとは、筒の中にピストン・ロッド・オイルと呼ばれる粘性の高いオイルが入った装置のこと。地震の揺れによって水鉄砲のように筒が伸び縮みし、その動きが生じたエネルギーを吸収します。
小さい揺れから大きな揺れまで対応できるうえ、台風などで起こる揺れに対しても効果を発揮します。
ダンパーの種類②・鋼材ダンパー
鋼材ダンパーとは、鉄やアルミといった金属で作られたダンパーのこと。金属が曲がる際の力を熱エネルギーに変え、そのエネルギーで地震の揺れを収めるという仕組みです。
強いエネルギーで揺れを抑えるため大きな地震でも安心度が高いダンパーですが、一度曲がってしまった金属は元に戻りづらいため、頻発する地震の際は効果が薄れる可能性があります。
ダンパーの種類③・鉛ダンパー
鉛ダンパーとは、金属の中でも柔軟性が高い鉛を用いたダンパーのこと。
鉛ダンパーはU字型に歪曲した太い柱状になっており、地震が発生するとその揺れによって柔らかい鉛が伸び縮みして振動エネルギーを抑制するという仕組みになっています。
柔らかくとも金属である鉛を用いることで太く短い状態で設置することができるため、省スペースに設置したい場合に適しています。
免震メリット・地震による揺れを軽減できる
免震構造の大きなメリットは、建物と基礎(地盤)が免震装置によって切り離されているため地震の揺れが伝わりにくくなるという点。
地震が起きても建物はあまり揺れず、家具が動いたり壊れたりしてしまうといったリスクも抑えることができます。
建物の中にいる時に地震が起きても揺れを感じにくいため、落ち着いて避難や対処ができるでしょう。
免震装置は地震の大小に関わらず機能するため、震度の大きさによって効果が変わることがないのもメリットです。
免震デメリット・横揺れ以外の地震に効果を発揮しづらい
メリットが多い免震構造ですが、残念ながらデメリットも存在します。
まずは、揺れが伝わりにくいというその構造。建物と地面が切り離されているのが揺れを逃がす要因ですが、切り離されているゆえに縦方向の地震が起こるとその効果を発揮することができません。
「免震装置を挟んで建物が地面から浮いている状態」であることを考えると、免震が縦揺れに弱いことが理解しやすいでしょう。同じ理屈で台風などの強風による揺れにも弱くなっています。
また、免震装置が横揺れを逃がすため、装置の振れ幅分の面積を確保しておく必要があるという点も、状況によってはデメリットに感じるでしょう。
そして、免震の最も大きな弱点が「コスト」。耐震や制震に比べて免震のコストはかなり高く、その分総額に上乗せされてしまいます。
こまめなメンテナンスを必要とする点や、施工できる業者が少ない点もデメリットといえるでしょう。
免震・耐震・制震それぞれの違い
免震とは地震の力を免れること
これまでも述べてきましたが、基礎(地面)と建物の間に免震装置を設置し、地震の揺れを直接伝えないようにするのが免震の仕組みです。
揺れが伝わりにくくなるため室内にいても地震を感じにくく家具の倒壊なども防げるのがメリットですが、縦揺れに弱くコストが嵩むというデメリットがあります。
耐震とは地震が起こっても揺れに耐えて倒壊を防ぐこと
耐震とは、建物そのものの強度を上げて地震の揺れに耐えうるようにすること。住まい事態を頑丈にすることで、地震の揺れがきても倒壊しないように対策することを指します。
耐震・免震・制震の中では最もコストが安く工期も短くて済み、間取りの自由度も比較的保たれるのがメリットですが、上階は揺れが大きくなること、揺れに耐えるのは建物自体なので設置されている家具は倒壊しやすいこと、余震などで何度も起こる揺れには弱いことなどがデメリットとして挙げられます。
制震とは建物の振動を抑えること
制震とは、建物の中で揺れを抑え込むこと。免震は建物の下にダンパーを設置しますが、制震は建物内部にダンパーを設置して地震の揺れを吸収するという仕組みになっています。
免震よりもコストが安価でメンテナンスが容易というメリットがあるものの、地盤や装置の設置位置などによって効果が左右されるというデメリットを持っています。